注:本稿は2019年5月の樱智而望企业管理咨询(上海)有限公司顧客向けレポートに掲載されました弊社提供記事です。貼付の過程で一部の図表が壊れておりますのでご了承ください。
【はじめに】
前号に続き、駐在員の個人所得税税務実務を全般的に明確化する財政部・税務総局「非居住者個人及び住所を有しない居住者個人に関する個人所得税政策関連公告」(財政部税務総局公告2019年第35号、以下35号公告といいます)に基づく、駐在中の駐在員の個人所得税申告の論点について整理をします。
前号でも示した通り、2019年改正個人所得税法以前の駐在員税務実務において具体的な状況に応じ計算方法を定めていた「国家税務総局国内に住所の無い個人が取得する給与報酬所得の納税義務問題に関する通知」(国税発[1994]148号、以下94年通知といいます)や「国家税務総局中国国内に住所の無い個人の税収協定の執行及び個人所得税法の若干問題に関する通知(国税発[2004]97号、以下04年通知といいます)等に替わり、35号公告が公布され2019年1月1日に遡って施行されました(同時に94年通知や04年通知は廃止されました)。
【本文】
2019年5月の申告時より、個人所得税申告システム(※)のユーザーインターフェースが35号公告を反映した内容となり、外国人(※※)についてシステム中の各「公式」に基づいて申告を行う形となりました。
※:上海市、広東省、江蘇省のシステムは確認済
※※:正確には「総合所得申告」の「正常給与報酬所得」、「非居住者所得申告」の「外籍人員正常給与報酬」等
「公式」に基づいて申告を行うのは2018年以前の実務にもあったものですが、2019年年初の個人所得税申告システムからは一度削除されており、今回35号公告公布後再登場する形となりました。外国人が在籍する経営者の皆様におかれましては、今回財務担当者から
・外国人の申告実務が「公式」を選択する形で申告を行うよう変化しました
・当社の在籍する外国人についてはXXの形で申告を行います
・4月までの計算方法とXXのような変更があり、XX元程度の税額の影響があります、もしくは特段計算方法や税額に影響はありません
というような報告は受けられましたでしょうか?
もちろん、申告システムに変更があったから即ち申告内容に変更が出るということではありませんし、税法の改正や新法規の公布に合わせて必要な場合変更となるべきですが、いずれにしてもリスクの高い駐在員の個人所得税税務実務に一定の影響を与える事項ですので、社内で報告・連絡・相談が出来ているかというテストケースのひとつになるかもしれません。(この手のテストケースは実務上頻繁に発生します)
閑話休題。2018年以前の実務では、94年通知や04年通知等に基づき「中国に満1年以上5年を超えず居住している駐在員」について以下に基づき申告計算を行っていました。
国税发[1994]148号
四、关于在中国境内无住所但在境内居住满1年的个人纳税义务的确定根据税法第一条第一款、实施条例第六条的法规,在中国境内无住所但在境内居住满1年而不超过5年的个人,其在中国境内工作期间取得的由中国境内企业或个人雇主支付和由中国境外企业或个人雇主支付的工资薪金,均应申报缴纳个人所得税;
国税发[2004]97号
(三)按国税发〔1994〕148号第四条或第五条规定负有纳税义务的个人应适用国税函发〔1995〕125号第四条规定的下述公式:
应纳税额=[当月境内外工资薪金应纳税所得额×适用税率-速算扣除数]×[1-当月境外支付工资/当月境内外支付工资总额×当月境外工作天数/当月天数]
今回35号公告により、類似した公式が定められました。
二、住所の無い居住者個人に関する給与報酬所得収入額計算
(二)住所の無い個人が居住者の場合
一納税年度内で、国内に累計して満183日居住する住所の無い個人が取得する給与報酬所得について、当月の給与報酬収入額は以下の規定に基づき計算する;
1.住所の無い個人が国内に累計して満183日居住する年度が連続して6年に満たない場合
国内に累計して満183日居住する年度が6年に満たない住所の無い居住者個人は、実施条例第四条の優遇条件に符合する場合、国外で就業する期間に帰属しかつ国外の会社又は個人が支払う給与報酬所得部分を除き、その取得する全部の給与報酬所得について、個人所得税を計算納付しなければならない。給与報酬収入額の計算公式は次の通り(公式三);
当月の給与報酬収入額=当月国内外給与報酬総額×
当月国外支払給与報酬額 当月給与報酬所属就業期間国外就業日数
1- ―――――――――――――× ―――――――――――――――――
当月国内外支払給与報酬総額 当月給与報酬所属就業期間カレンダー日数
「住所の無い」という用語は過去の本レポートでも解説していますが、駐在終了後中国国外へ帰任する個人は「住所の無い」個人であるという定義が一番基本的なものです。また、今号では解説を省略しますが、財政部・税務総局「中国国内で住所の無い個人の居住時間の判定標準に関する公告」(財政部税務総局公告2019年第34号)により、全ての外国人の「満183日居住する年度」は2019年を1年目として起算することになります。
ここで、35号公告の上位の規定となり、上の規定でも参照されている個人所得税法実施条例第四条の箇所を記載します。
第四条 中国にいる住所の無い個人で、中国国内の居住日数が累計で満183日となる年度が連続して6年に満たない場合、主管税務機関に届け出の上、中国国外源泉所得且つ中国国外の企業または個人が支払う所得については、個人所得税の納税を免除する。
この「主管税務機関に届け出の上」の表現は2018年以前の個人所得税法実施条例の表現を踏襲していますが今一つ明確でない部分であり、お客様側でもご確認ください。
(1)実施条例第四条の「個人所得税の納税を免除する」をどう考えるか
実施条例第四条の「個人所得税の納税を免除する。」は財務以外の方にもクローズアップされやすく、且つ誤解を生みやすい点ですが思考回路は以下のように考えられます。
「中国国外源泉所得且つ中国国外の企業または個人が支払う所得については、個人所得税の納税を免除する。」(実施条例第四条)
「国外で就業する期間に帰属しかつ国外の会社又は個人が支払う給与報酬所得部分を除き、その取得する全部の給与報酬所得について、個人所得税を計算納付しなければならない。」(35号公告二(二)1.)
給与報酬収入額の計算公式は次の通り(公式三);
つまり、非常に基本的な点ですが会社が各自勝手に「中国国外源泉所得且つ中国国外の企業または個人が支払う所得については、個人所得税の納税を免除する。」を解釈するのではなく、実務上は公式三に基づいて計算申告を行うべきことになります。
(2)一般的な駐在員は日本で受け取る給与を申告すべきなのか
上に関係する論点ですが、そもそも一般的な中国現地法人の駐在員は日本等で受け取る給与についても中国で申告すべきなのでしょうか。これについては、駐在員の方を三パターンに分けて考えると良いと思います。
① 中国大陸の現地法人に出向し(雇用契約等の関係にあり)、出向元等他の会社の職務を持たない方
駐在員の方で多いのはこのパターンです。下の規定により、日本等で受け取る給与も中国国内で役務提供する対価と解されるため、すべてが中国国内源泉所得の給与として申告が必要です。
個人所得税法実施条例第三条(一)「任職、雇用、契約等中国国内で役務を提供することで取得する所得は支払地点が中国であるか否かに関わらず、中国国内源泉所得である」
かつ、この方の場合は下の規定により、国外に出張や休暇に出たとしてもすべて国内で就業していると計算されるため、前頁(35号公告二(二)①)の公式の分子後半「当月給与報酬所属就業期間国外就業日数」が0になります。公式の後半の分数計算は不要となり、単純に「当月の給与報酬所得=当月国内外給与報酬総額」となります。
35号規定一(一)「国内の就業期間には国内での実際就業日、国内外での公休暇、個人の休暇、研修を受けた日数を含む。」
上の2点によりこの方は、日本等で受け取る給与を含めたすべての給与所得を申告しなければなりません。(次号に続く)
本稿の執筆時点は次の通りです:2019年5月4日
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