「個人所得税確定申告・実務上の論点」

注:本稿は2020年6月のみずほフィナンシャルグループの Mizuho Global InfoStation- 中国会計・税務の現場から に掲載されました弊社提供記事です。貼付の過程で図表の一部が壊れておりますことをご了承ください。

 

 

【はじめに】

 

今号では2019年個人所得税法大改正に基づき、2020年より始まりました個人所得税の確定申告実務について説明します。法令法規と実務的な枠組み自体は2019年直前までに概ね固まっていましたが、1年が経ち、1年間の確定申告としての実務が始まったのは今回からとなります。

本稿では駐在員の個人所得税確定申告の論点を中心に、解説いたします。

 

 

 

 

【解説:日本語】

 

1.確定申告の対象者に関する論点

(1)確定申告が不要な方の定義

「国家税務総局2019年度個人所得税総合所得確定申告に関する事項の公告」(国家税務総局公告2019年第44号、以下44号公告といいます)により、以下のいずれかに該当する方は2019年度の確定申告が不要とされます。この規定は2019年度の総合所得の確定申告について規定しているので、翌年からは変更がある可能性があります(個人所得税法実施条例に定める確定申告要件と、44号公告に定める要件はやや異なります)。

・中国税法上の非居住者の方

2019年度の総合所得年収入が12万元を超えない方

2019年度の要追納税額が400元を越えない方

2019年度の源泉徴収納付済み金額合計と年度の要納付額が一致する方

・還付申請をしない方

 

(2)実務上の論点

① 中国へ長期出張する外国人が2019年度中非居住者として中国で申告を続け、税法上の居住者要件を充たした場合、一般的には確定申告が必要とされます。非居住者として取得する総合所得の税額の計算方法や税率、控除項目が居住者のそれと異なるためです。

 

② 収入の発生時に源泉徴収義務者が源泉徴収と納付の義務を履行しなかった場合、所得を得た個人が確定申告と税金の追納を行わなければなりません。

 

③ 給与報酬所得以外の所得がなく、給与報酬所得について勤務先が月次の源泉徴収納付を適法に行っていても、予納額合計が必ず年度の要納付額と一致するとは限りません。主なケースとしては

・年の途中で転職等により源泉徴収納付を行う法人を変更した場合、所得の高い方を中心に、年度の要納付額と予納額合計が一致しない可能性が比較的高いです。

・労務報酬所得を得ている場合、年度の要納付額と予納額合計が一致しない可能性が高いです。

・中国に常駐しない駐在員や役員等の場合、中国に滞在した日数合計次第で税額計算が変わり、月次の計算方法と必ずしも一致しない可能性があります。

 

この場合注意すべきは、会社(源泉徴収義務者)が毎月適法に源泉徴収義務を果たしていても、個人が個人として確定申告を行わなければならない場合があるということです。

 

同時に、これが会社で税額負担している駐在員の場合には、19年度決算に会計上引当計上して取り込んだ方が良い内容であることにも注意が必要です。

 

 

 

2.確定申告の時期に関する論点

(1)時期に関する規定

個人所得税の確定申告は翌年の3月1日から6月30日までの間に行うと規定されています。(個人所得税法第十一条)

時期については改正前個人所得税法とはずれが生じています。

 

(2)実務上の論点

① 駐在員の交代などにより、確定申告を行う必要がある又は行いたいが個人所得税の確定申告の時期までに帰任してしまうなどのケースが考えられます。そのような場合、帰任前に個人所得税の確定申告を行うことが可能です(离境前办理年度汇算)。

 

 

  1. 納税地に関する論点

(1)実務上の論点

納税地については「2019年度個人所得税総合所得年度確定申告オペレーションマニュアル」の記載が参考となります。

 

① もし居住者個人が前年企業によって雇用され、給与所得を得ていて確定申告を行う場合には、企業の所在地の主管税務機関にて申告を行う必要があります。

例えば、2019年中A社に雇用されていて、2020年1月にB社に転職をした場合、確定申告はA社所在地の主管税務機関にて申告を行う必要があります。

2019年1月から8月までA社に雇用されていて、2019年9月から12月までB社に雇用されている場合、確定申告はA社所在地の主管税務機関にて行ってもよいし、B社所在地の主管税務機関にて行ってもよいとなります。

 

② もし給与所得がなく、労務報酬だけを得ている場合には、自らの「戸籍地」の主管税務機関により申告を行ってもよいし、自らの「居住地」の主管税務機関により申告を行ってもよいとされます。

居住地とは、居住証があれば「居住証上の住所」を居住地とし、居住証がなければ「実際の居住地」を居住地とします。

 

  1. 還付に関する論点

(1)実務上の論点

確定申告の結果還付となる場合には、従業員個人の銀行口座に還付金が入金されるため、個人の中国大陸内の銀行口座情報、そのほか個人の中国大陸内の携帯番号が必要となります。

 

グロスアップ計算をしている駐在員の場合、還付金が個人に帰属するのは適切とはいえないと思いますので、会社と該当駐在員との間でコミュニケーションが必要となると思います。

 

 

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