「駐在員の家賃の処理」

注:本稿は2018年3月のみずほフィナンシャルグループ MIZUHO CHINA WEEKLY NEWSに掲載されました記事を2019年5月に一部加筆修正したものです。

 

【はじめに】

駐在員の家賃を会社が負担する事例は良くみられますが、関連する経理処理や税務処理についてはご質問を頂く定番と言えるところです。特に、お客様が就業ビザ更新に絡んで税前給与金額を増やしたいと思われたり、はたまたお客様が外国人の手当免税優遇政策の適用を目的とした節税を考えられたりと、色々な方向に向かうことが多い分野です。
家賃の件に限りませんが、駐在員の個人所得税に関する分野は会社さん毎に少しずつ異なった傾向を持つ、なかなか一般化してお話ししにくい分野であり、同時に税額への影響が大きいため税務リスクの高い分野であると言えるでしょう。また一度誤った処理を始めると毎月同様の処理が行われ、修正がされにくく、後で発覚するとかなりのインパクトを持つという意味でもリスクが高いと言えます。

 

【駐在員の家賃の経理処理】

会社が駐在員の家賃を支出する場合の経理処理について考えてみましょう。

 

(1)賃借料として計上

まず、駐在員の家賃を「賃借料」として計上することは企業所得税の所得の計算上誤りです。これは直ちに修正すべきです。

 

(2)福利費として計上

従業員の衛生保険、生活、住居、交通のために支出する各種手当や非貨幣性福利の場合には、従業員福利費の範囲に該当します。(「企業給与報酬及び従業員福利費の企業所得税控除の問題に関する通知(国税函[2009]3号)」第三条)

企業所得税実施条例の第40条に規定する従業員福利費は給与報酬総額の14%を超えて損金算入をすることが出来ない(「企業所得税実施条例」第40条)ため、ローカル社員人数に比して駐在員人数の多い会社では、この点を視野に入れる必要があることがあります。

損金算入限度の枠内で企業所得税の計算上損金に算入するため、この住宅費用に対しては会社宛の発票を必ず発行してもらうよう、大家に依頼する必要があります。

 

(3)給与報酬に含める

一方で福利費に計上せず、住宅費は個人負担として給与報酬に含めるという考え方があります。企業が従業員のために提供する交通、住宅、通信への恩典で、貨幣化改革を実践し、月ごとに標準に従って住宅手当や交通費手当、車手当、通信手当を支払う場合、従業員給与報酬総額に含め、福利費管理を行わないことが規定されています(「財政部 企業の従業員福利費の強化に関する財務管理の通知(財企[2009]242号)」第二条)。

貨幣化改革とは翻訳に難しい言葉ですが、実費に関わらず規定に従った固定の手当を支給するというような意味合いです。

給与報酬として支給するので、実際の住宅費用がいくらか、また企業に対して家賃発票が発行されているかどうかという点が、税務上は論点にならないということになります。

住宅費を個人負担として給与報酬に含めるということはつまり手取りの増加を意味することになります。駐在員の方の多くがグロスアップで個人所得税及び税前給与を計算しているため、この処理の場合には個人所得税増額という結果を招くことになります(外国人の手当免税優遇政策、所得控除の論点を含めず考える場合)。

一方で、駐在員の家賃が福利費の枠を使わなくなりさらに給与総額に組み入れられるため、その他の福利費支出が損金に算入できる部分が大分拡大することになります。

 

最初にも書きましたが、駐在員の個人所得税の分野は個別性が強くリスクが高く、各種の状況に応じた細かい規定が相当に整備されています。税務上のご判断は本稿等の断片的な情報に依拠せず、個人所得税関係のご相談に流れるように対応できる、経験豊富な専門家にご相談いただいたうえで行われますようお願いします。